
民泊の収益は「1泊の単価×稼働日数」から費用を引けば計算できますが、結果を最も大きく左右するのは稼働率の置き方です。この記事では、観光庁の統計をもとに稼働率を置き、費用を変動費と固定費に分けて、損益分岐の稼働日数と初期費用の回収期間まで試算します。記事の後半には、条件を入れて試算できるツールも置いています。
収益シミュレーションの計算式
民泊の収益シミュレーションは、次の3つの式で組み立てます。
- 売上=1泊の平均単価×年間の稼働日数
- 利益(税引前)=売上−変動費−固定費
- 損益分岐の稼働日数=年間の固定費÷(1泊の平均単価−1泊あたりの変動費)
変動費は、泊まるたびに増える費用です(清掃・リネン、消耗品、予約サイトの手数料など)。固定費は、稼働しなくてもかかる費用です(家賃、保険、通信費など)。予約サイトの手数料のように売上に比例する費用は、1泊あたりの金額に直して変動費に含めます。
実務では、利益より先に損益分岐の稼働日数を出すと、計画に無理がないかが見えます。その日数が、次の章で見る統計の水準と比べて現実的かどうかを確かめてから、単価や費用を調整します。
稼働率は観光庁の統計を基準に置く
計画の稼働率は、公的な統計の水準を基準にして、控えめに置くのが安全です。
住宅宿泊事業者は、届出住宅に人を宿泊させた日数などを、2か月ごとに都道府県知事等へ報告する義務があります(住宅宿泊事業法 第14条)。観光庁はこの報告を集計して公表しています。2026年9月30日に公表された2026年6〜7月分では、届出住宅あたりの宿泊日数は全国で15.4日でした。61日間に対して約25%です。
| 都道府県 | 届出住宅あたりの宿泊日数(2026年6〜7月) | 61日に対する割合 |
| 全国 | 15.4日 | 25% |
| 北海道 | 21.1日 | 35% |
| 東京都 | 17.3日 | 28% |
| 神奈川県 | 14.6日 | 24% |
| 千葉県 | 10.9日 | 18% |
| 埼玉県 | 9.4日 | 15% |
| 福岡県 | 18.4日 | 30% |
| 沖縄県 | 16.1日 | 26% |
この数字は夏休みを含む2か月のもので、報告のあった届出住宅の平均です。年間を通した平均が同じになるとは限らないため、ほかの期間の集計とも見比べて置くと確実です。
開業後の稼働率が計画を大きく下回ることは、実務では珍しくありません。計画の段階では、楽観・標準・悲観の3通りで試算し、標準を統計の水準、悲観をそれより低い水準に置いておくと、計画を下回ったときの手当てを事前に考えられます。
民泊新法では180日上限が売上の天井になる
住宅宿泊事業(民泊新法の届出)で営業できるのは、年間180日までです。条例で、さらに短くなる地域もあります。
この法律において「住宅宿泊事業」とは、旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第三条の二第一項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数として国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数が一年間で百八十日を超えないものをいう。
住宅宿泊事業法 第2条第3項
都道府県(中略)は、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止するため必要があるときは、合理的に必要と認められる限度において、政令で定める基準に従い条例で定めるところにより、区域を定めて、住宅宿泊事業を実施する期間を制限することができる。
住宅宿泊事業法 第18条
試算では、180日の満額を前提にしないことが大切です。上限に近い日数で試算していると、条例の制限や季節の波で届かなかったときに、計画全体が崩れます。条例による制限は、物件のある自治体の公式ページで確認してください。
営業の形も、物件の条件で決まります。たとえば建物の確認済証がなく、取得の見込みも立たない物件では、旅館業(簡易宿所)の許可を前提にした計画は立てにくく、住宅宿泊事業の届出で営業する選択になることがあります。物件の条件で営業の形が決まり、営業の形で売上の上限が決まります。
1泊の単価と料金カレンダーの決め方
1泊の単価は、季節や曜日で数段階に分けて日ごとに割り当て、試算には年間の平均単価を使います。
一棟貸しの実務では、年間の料金をA〜Dのように4段階程度に分け、1日ずつ割り当てる方法が扱いやすい形です。繁忙期と閑散期、平日と週末を組み合わせて各日に段階を割り当てます。段階の幅は立地と需要で変わり、最高と最低の差を1.5倍弱に収める設定もあれば、次の例のように2倍以上に開く設定もあります。
平均単価は、段階ごとの単価×日数を合計し、日数で割って出します。たとえば3LDKの戸建てを一棟貸しにして、年90日の営業を次のように見込んだ場合、平均単価は3万5千円です。
| 段階 | 1泊の単価 | 日数 | 売上 |
| GW・お盆などの最繁忙期 | 60,000円 | 10日 | 600,000円 |
| 行楽シーズンの土日・長期休み | 40,000円 | 25日 | 1,000,000円 |
| 通常の土日 | 30,000円 | 30日 | 900,000円 |
| 通常の平日 | 26,000円 | 25日 | 650,000円 |
| 合計(平均単価) | 35,000円 | 90日 | 3,150,000円 |
料金の決め方にも注意が必要です。法人の事業計画では、基準の料金を、投資額を回収できる水準から逆算して決める方法がとられることがあります。逆算した料金は事業として必要な水準を示しますが、ゲストが払ってくれる水準とは限りません。予約サイトで、近くの似た施設(定員・広さ・設備が近いもの)の料金を調べて逆算した料金と照らし、大きく離れていれば、初期費用や稼働率などの前提から見直します。
費用は変動費と固定費に分ける
費用は、泊まるたびにかかる変動費と、稼働に関係なくかかる固定費に分けて置きます。この記事の試算では、次のように置いています。
| 区分 | 費用 | この記事の試算での置き方 |
| 1泊ごと | 清掃・リネン・ごみ処分 | 1泊10,000円 |
| 1泊ごと | 消耗品・アメニティ | 1泊500円 |
| 1泊ごと | 水道光熱費(使用量の分) | 1泊2,000円 |
| 売上に比例 | 予約サイトの手数料 | 売上の15% |
| 売上に比例 | 管理委託費 | 売上の20% |
| 固定費 | 通信・水道光熱の基本料 | 年120,000円 |
| 固定費 | 保険 | 年30,000円 |
| 固定費 | 固定資産税(持ち家)/家賃(賃貸) | 年100,000円/年1,440,000円 |
管理委託費
家主が不在になる民泊(家主不在型)では、住宅宿泊管理業務を住宅宿泊管理業者に委託しなければなりません(住宅宿泊事業法 第11条第1項)。委託料は、任せる業務の範囲と業者によって大きく変わるため、この記事では売上の20%と置いています。実際の計画では、見積もりを取って差し替えてください。
予約サイトの手数料
手数料の体系は予約サイトごとに違います。たとえばAirbnbは、ホストとゲストでサービス料を分けて負担する体系ではホストの負担が3%、ホストが全額を負担する体系では多くのホストで15.5%です(Airbnbヘルプセンター)。Booking.comなど、契約によって手数料率が決まるサイトもあります。
一棟貸しでは、Booking.com、一休、楽天おやど、自社サイトの予約などを併用する形が考えられ、施設によってはBooking.comからの予約が中心になることもあります。実務上、予約サイトの手数料は売上の15%程度を見込んでおくと、試算と実績の差が出にくくなります。この記事の試算でも15%と置いています。決済の手数料が別にかかるかどうかも、サイトごとに確認しておきます。
人件費などの固定費
少人数の自社スタッフでシフトを組んで運営する場合、費用の中心は人件費、予約サイトの手数料、家賃(建物を賃借する場合)になります。自社のスタッフで運営すると、人件費は稼働に関係なくかかる固定費になり、稼働が低い時期ほど重くなります。管理や清掃を外部に任せると、費用の多くは売上や泊数に比例する形になります。どちらが有利かは、見込む稼働日数で変わります。
試算例:持ち家と賃貸で比べる
ここまでの前提で、3LDKの戸建てを一棟貸しにする場合を、持ち家と賃貸で比べます。家主不在型で管理は委託し、清掃は外注します。平均単価は35,000円、費用は前の章の表のとおりです。初期費用、減価償却、借入の返済、税金は含めていません。
ケースA:持ち家で営業する場合
| 項目 | 年60日 | 年90日 | 年120日 |
| 稼働率(365日に対する割合) | 16% | 25% | 33% |
| 売上 | 2,100,000円 | 3,150,000円 | 4,200,000円 |
| 売上に比例する費用(35%) | 735,000円 | 1,102,500円 | 1,470,000円 |
| 1泊ごとの費用(12,500円×日数) | 750,000円 | 1,125,000円 | 1,500,000円 |
| 固定費 | 250,000円 | 250,000円 | 250,000円 |
| 利益(税引前) | 365,000円 | 672,500円 | 980,000円 |
1泊あたりに残る額は、35,000円−売上に比例する費用12,250円−1泊ごとの費用12,500円=10,250円です。固定費250,000円をこれで割ると、損益分岐の稼働日数は年25日です。統計の水準と比べても無理のない日数で、持ち家は固定費が小さいぶん、稼働が低くても赤字になりにくい形です。
ケースB:賃貸で営業する場合(家賃 月12万円)
| 項目 | 年60日 | 年90日 | 年120日 |
| 稼働率(365日に対する割合) | 16% | 25% | 33% |
| 売上 | 2,100,000円 | 3,150,000円 | 4,200,000円 |
| 売上に比例する費用(35%) | 735,000円 | 1,102,500円 | 1,470,000円 |
| 1泊ごとの費用(12,500円×日数) | 750,000円 | 1,125,000円 | 1,500,000円 |
| 固定費 | 1,590,000円 | 1,590,000円 | 1,590,000円 |
| 利益(税引前) | −975,000円 | −667,500円 | −360,000円 |
家賃が固定費に入るため、損益分岐の稼働日数は年156日(稼働率43%)になります。180日の上限の内側ではありますが、統計の全国の水準(約25%)を大きく上回ります。この前提のままでは、年120日営業できても赤字です。
賃貸で始めるなら、家賃を抑える、単価を上げる、委託する業務の範囲を見直すなど、どこで差を埋めるのかを試算で確かめてから物件を決めます。条例で営業日数が短くなる地域では、さらに厳しくなります。
この試算は、上に書いた前提にもとづく一例です。収益を保証するものではありません。立地、物件、時期、運営のしかたで結果は大きく変わります。
初期費用の回収期間まで計算する
年間の利益が出る計画でも、初期費用を回収できるまでに何年かかるかを確かめておきます。
- 回収年数=初期費用÷年間の利益(税引前)
ケースAで、家具・家電、備品、消防設備、改修などの初期費用を合わせて500万円と仮に置くと、回収年数は年60日で約13.7年、年90日で約7.4年、年120日で約5.1年です。税金や借入の返済を考えると、実際に手元のお金で回収できるまでには、これより長くかかります。
法人が建築・内装工事を伴って一棟貸しを開業する場合、初期費用は1棟あたり数千万円規模、共用部分を含めた事業全体では億単位になることもあります。大きな割合を占めるのは、建築・内装工事、インフラ設備工事、家具家電です。初期費用が大きいほど、回収に必要な稼働日数と単価は上がります。初期費用の見積もりと収益の試算は、別々に作らず、回収年数でつないで判断します。
実務でつまずきやすい点
稼働率を高く置きすぎる
計画の稼働率を高く置くと、ほかの数字がすべて楽観的に見えます。実務でも、開業後の稼働率が計画を大きく下回ることは珍しくありません。統計の水準を基準に、悲観の場合の試算も作っておきます。
料金を投資回収からの逆算だけで決める
逆算した料金が相場より高いと、稼働率が下がり、計画した売上に届きません。近くの似た施設の料金と照らして確認します。
人件費などの固定費を軽く見る
自社で運営する場合の人件費や、賃貸の家賃は、稼働しない日にもかかります。損益分岐の稼働日数を出すと、固定費の重さが見えます。
180日上限と条例を試算に入れていない
住宅宿泊事業では年180日が上限で、条例でさらに短くなる地域もあります。上限に近い日数を前提にした計画は、少しの見込み違いで崩れます。
税引前の利益と、手元に残るお金を混同する
試算の利益からは、所得税・住民税(法人なら法人税など)や借入の返済が出ていきます。税金の扱いは、事業の形や収入の区分などで変わります。個別の判断は税理士に相談してください。
民泊プランメーカーで自分の条件を試算する
目的・エリア・物件・運営スタイル・初期予算・ゲスト像の6つの質問に答えると、宿泊単価と稼働率を動かしながら、月の収支と初期費用の回収の目安を試算できます。結果は一般的な相場にもとづく概算です。実際の計画では、この記事の計算式と見積もりで確かめてください。
よくある質問
旅館業(簡易宿所)で営業すると、計算はどう変わりますか?
旅館業の許可で営業する場合は、住宅宿泊事業の180日の上限がないため、稼働日数の上限が広がります。一方で、許可を受けるための建物や設備の要件があり、初期費用が増えることがあります。計算式は同じなので、上限日数と初期費用を置き換えて比べてください。許可の要件は営業許可の基本知識で整理しています。
法人で始める場合も、計算のしかたは同じですか?
計算式は同じです。法人では、社内のスタッフの人件費を固定費として入れることを忘れないようにします。税金や会計処理の扱いは個人と異なるため、個別の判断は税理士に相談してください。
エクセルで収支計画を作るときは、どんな項目が必要ですか?
次の6つがあれば、この記事と同じ試算ができます。
- 1泊の平均単価(料金カレンダーから算出)
- 年間の稼働日数(楽観・標準・悲観の3通り)
- 1泊ごとの費用(清掃・リネン、消耗品、水道光熱など)
- 売上に比例する費用の率(予約サイトの手数料、管理委託費)
- 年間の固定費(家賃または固定資産税、人件費、保険、通信など)
- 初期費用
まとめ
- 売上=平均単価×稼働日数、利益=売上−変動費−固定費で計算し、先に損益分岐の稼働日数を出す
- 稼働率は観光庁の統計を基準に、控えめに置く。2026年6〜7月の全国の水準は約25%
- 住宅宿泊事業は年180日が上限で、条例でさらに短くなる地域もある
- 料金は数段階に分けて平均単価を出し、近くの似た施設の相場と照らす
- 賃貸や自社運営は固定費が大きく、損益分岐の稼働日数が上がる
- 初期費用の回収年数まで計算してから判断する
参考資料
法令・制度の情報は2026年10月時点で確認したものです。

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