市街化調整区域に民泊・貸別荘は開業できない?宿泊業と都市計画法の関係を解説!

このページでわかること
・市街化調整区域は建物を建てることができない?
・住宅宿泊事業法の民泊届出は市街化調整区域でもできる?
・旅館業法の簡易宿所営業許可は市街化調整区域でも取得できる?

民泊や貸別荘の開業は様々な法律が関係していますが、特に都市計画法には密接に関わってきます。

こちらでは民泊や貸別荘の開業と都市計画区域区分の関連性を紹介していますが、本ページではその中でも市街化調整区域との関係を詳細にまとめたいと思います。

そもそも市街化調整区域とは?

市街化調整区域とは、簡単に言うと都道府県や市区町村が「市街化を抑制する区域」として指定したエリアのことで、原則として建物を建てることはできない場所です。

市街化調整区域で建物を建てるには

市街化調整区域に建物を建てるためには都市計画法上、以下のいずれかの許可を得る必要があります。

①都市計画法29条による許可(開発許可を取得した開発行為の一環として行う建築行為に対する許可)
②都市計画法43条による許可(開発行為を伴わない建築行為に対する許可)

都市計画法29条の開発許可を得るためには、様々な要件をクリアする必要があります。例えば、立地基準というものがあり、第34条にはどのような目的の建物であれば開発許可を出せるかという基準が定められています。

第三十四条 前条の規定にかかわらず、市街化調整区域に係る開発行為(主として第二種特定工作物の建設の用に供する目的で行う開発行為を除く。)については、当該申請に係る開発行為及びその申請の手続が同条に定める要件に該当するほか、当該申請に係る開発行為が次の各号のいずれかに該当すると認める場合でなければ、都道府県知事は、開発許可をしてはならない
~以下略~

都市計画法 第三十四条

このように、開発許可を得るためには各種要件を満たす必要があり、特に技術基準などを満たそうと思うと高額の工事費用がかかってしまう場合があります。

しかし、市街化調整区域であっても地域生活の維持や発展のために必要とされる建物もありますよね。こうした建物については、例外的にこれらの許可を取得せずとも建てられる建物も存在します。例えば、農林漁業者用の住宅などです。

第二十九条 都市計画区域又は準都市計画区域内において開発行為をしようとする者は、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市又は同法第二百五十二条の二十二第一項の中核市(以下「指定都市等」という。)の区域内にあつては、当該指定都市等の長。以下この節において同じ。)の許可を受けなければならない。ただし、次に掲げる開発行為については、この限りでない。
~中略~
 市街化調整区域、区域区分が定められていない都市計画区域又は準都市計画区域内において行う開発行為で、農業、林業若しくは漁業の用に供する政令で定める建築物又はこれらの業務を営む者の居住の用に供する建築物の建築の用に供する目的で行うもの
~以下略~

都市計画法 第二十九条

第四十三条 何人も、市街化調整区域のうち開発許可を受けた開発区域以外の区域内においては、都道府県知事の許可を受けなければ、第二十九条第一項第二号若しくは第三号に規定する建築物以外の建築物を新築し、又は第一種特定工作物を新設してはならず、また、建築物を改築し、又はその用途を変更して同項第二号若しくは第三号に規定する建築物以外の建築物としてはならない。ただし、次に掲げる建築物の新築、改築若しくは用途の変更又は第一種特定工作物の新設については、この限りでない。
~以下略~

都市計画法 第四十三条

要するに何が言いたいかといいますと、市街化調整区域は基本的に建物が建てられない地域ですが、例外的に建築を許可されるケースもあります。しかし、これらの建築物は上記のような各種要件を満たしたうえで建築されています。つまり、当初の建築物の利用目的を加味した上で(例えば農家の田中さんが居住するための建物)でその存在が認められているのです。

開発許可を得ていない場合もある

上記のような開発許可を得ていなくても建築が認められている場合があります。それが「既存建築物」「既存宅地」と呼ばれるものです。

都市計画法が施行されたのは昭和43年(1968年)です。それ以降各自治体のタイミングで都市計画区域(市街化区域/市街化調整区域)の線引きがなされていきました。

つまり市街化調整区域と定められた時点で既に建っていた建物(概ね築60年程度以上)の場合は、建築時点では規制する法律がなかったわけですから、都市計画法上の許可を得てはいないのです。

市街化調整区域と民泊・貸別荘の関係

市街化調整区域と建築行為について簡単に説明したところで、次は市街化調整区域と民泊や貸別荘の関係について見ていきましょう。

一般的に市街化調整区域での宿泊業開業は難しいと言われますが、市街化調整区域だからといって宿泊施設が開業できないわけではありません。現に、市街化調整区域でも営業している旅館やホテル、貸別荘は多数存在します。

これは、宿泊業開業の営業許可を出す基準になる旅館業法や住宅宿泊事業法といった法律では、市街化調整区域では営業してはいけない、という規定はないからです。(別途条例で営業禁止や営業日の規制をかけている場合はあります。)

では、なぜ難しいと言われるかというと、本ページのメインテーマである都市計画法によって、建物の利用や用途が厳しく規制されていることに起因します。

これ以降、民泊・貸別荘の開業というポイントに焦点を当て、市街化調整区域の中古物件(住宅など)を取得し、リフォームをした上で開業するという例で、開業に際しての懸念点を見ていきましょう。

民泊・貸別荘を開業するためには主に2つの営業許可がある

民泊や貸別荘を開業する場合、厳密にいうと3つの行政手続きの方法がありますが、基本的には旅館業法の簡易宿所営業許可、もしくは住宅宿泊事業法上の民泊届出で行うことになりますので、この2つのそれぞれで開業しようとした場合で考えてみます。

営業許可に関して詳しくはこちら

民泊届出で開業する場合

住宅宿泊事業法に定める民泊届出で開業する場合に問題となるのは、その建物の目的が明確に定められている場合です。先に説明した通り、市街化調整区域の建物は、基本的には建築当初の利用目的ありきで建っています。こうした建物を取得して貸別荘として営業する場合、事業用に変更することになってしまうため、当初の開発許可、もしくは開発許可がなくても建築していいよと認められた際の要件に当てはまらなくなってしまうのです。

例えば農家である田中さんが済むために、例外的に開発許可なしで建築が認められた建物の場合です。第三者が取得して民泊を行いたいとなっても、いやいや、この建物は、農業を営む田中さんだから認められているんですよ、となりますよね。貸別荘を営むなんて、当初の話と違うじゃないか、となってしまうわけです。

こうした建物を「属人性のある建築物」と呼びます。つまり、その建物を利用する人の属性によって建物が認められているということです。

これに対し、前述したような既存建築物属人性のない建築物とされ、利用する目的や人が変わっても利用できる建築物と解釈されます。そのため、民泊として営業しても問題ないという交渉が可能になります。

つまり、その建物が「建築された経緯」ひいては属人性の有無が大きな争点となります。

旅館業法の許可で開業する場合

旅館業法に定める簡易宿所営業許可で開業する場合、営業許可の申請上、建物の用途が旅館やホテルといった宿泊施設である必要があります

貸別荘への転用を目的として取得する中古建物は、住宅用途である場合が大半です。市街化調整区域内では、この用途の変更にも開発許可もしくは協議が必要になります。

住宅から宿泊施設用途に変更しようと思うと、観光資源の活用に資するといった都市計画法上の新たな名目が必要になり、その他の各種要件を新たに満たしていく必要も出てくるケースもあるため、あまり現実的ではありません。

結論:市街化調整区域で民泊や貸別荘を開業するのは「難しい」

つまり、結論を言いますと、市街化調整区域で中古物件を取得し、民泊や貸別荘として開業する場合は「不可能ではないけど難しい」が答えになります。

これには非常に複雑かつ細かい法令が関連してくる上、個々の建物の経緯や自治体の判断によって左右される為簡単に言えることではないのが事実です。しかし、どのような物件であっても他の区域区分(例えば都市計画区域外)よりは苦戦するだろうというのは明白です。

もしどうしても開業したい物件があるけどそれが市街化調整区域にあるという場合は、まずは建築や開発を担当している行政部署に、どのような経緯でその建築物が建てられたか、民泊や旅館業として営業は可能かを直接確認することが必要です。

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