民泊・貸別荘の市場規模、市場動向は?観光統計データから読み解いてみた

このページでわかること
・民泊や貸別荘の市場規模の大きさと近年の動向

新規にビジネスを始める際、自身が参入しようとしている業界の市場規模やその動向を把握することは重要です。

民泊・貸別荘は大まかな分類では宿泊業界に属しています。宿泊業界には様々な業態が存在しており、その代表的なものがホテル・旅館です。

帝国データバンクが発表した「旅館・ホテル業界」 動向調査(2023 年度見通し)によると、旅館・ホテル業界の2023年の市場規模は4.9兆円前後と予想されています。コロナ禍明けの旅行需要の高まりを受け、過去最高だった2018年度の5.2兆円を超える可能性も示唆されています。

民泊・貸別荘はホテルや旅館の業態に比べると小規模であること、また数多くの事業者が参入している業態であることから、市場規模を正確に割り出すことは容易ではありません。

しかし、どれだけの業界ボリュームになっているのか、近年の市場動向はどうなっているのかなど、概算でも知っておきたいですよね。市場規模を算出する方法にはいくつかの方法がありますが、今回は官公庁の公表している「旅行・観光消費動向調査」のデータを用いて、民泊や貸別荘の市場規模はどれくらいなのか、近年の市場動向はどうなのかを、ホテルや旅館といった業態と比較しながら見ていきたいと思います。

参考:旅行・観光消費動向調査

旅行・観光消費動向調査とは?

まず初めに、旅行・観光消費動向調査は国土交通省観光庁が実施している統計調査です。日本国内居住者を対象に、年に4回、旅行に行った回数・時期や消費内訳等のアンケートを行い、データを取りまとめたものが公表されています。

旅行・観光消費動向調査でわかること

旅行・観光消費動向調査では、誰と旅行に行ったのか、宿泊した施設の業態は何か、利用した交通機関は何かなどの人数内訳がわかるようになっています。

そこで本記事では、この宿泊施設の業態別の人数内訳に着目し、旅行・観光消費動向調査で公表されている「延べ旅行者数」「宿泊消費額」の、業態別内訳を見ていきます。この業態ですが11の項目に分けられており、その中から「ホテル」「旅館」「ペンション・民宿・貸別荘」「キャンプ場」「民泊」の5つをグラフ化して比較したいと思います。

延べ旅行者数から見る市場規模

旅行・観光消費動向調査は3ヶ月毎に公表されています。2018年~2023年の5年間における各業態の延べ旅行者数は以下の通りです。

こちらは業態によって圧倒的な差があります。まず最も規模が大きいのはホテルで、他業態をすべて合計してもホテルの延べ利用者数には遠く及びません。一方、コロナの影響を最も受けているのもホテルであることが一目でわかります。

ホテルに次いで利用者数が多いのは旅館です。2022年末にはコロナ禍前と同水準の利用者数に戻っています。

そしてキャンプ場とペンション・貸別荘が拮抗する形で位置しています。コロナ禍においてはキャンプ場の方が利用者数が多かったものの、コロナ禍が収まるにつれてその差はなくなりました。2023年の年間利用者数がキャンプ場で約551万人、ペンション・民宿・貸別荘で約724万人となっています。

そして更にサイズ感が小さくなって民泊業界が位置します。2023年の年間利用者数が約119万人と、他業態には遠く及びません。

宿泊消費額にかける消費額から見る市場規模

次に、2018年~2023年の5年間における各業態の宿泊消費額は以下の通りです。

傾向としては延べ旅行者数の推移と概ね同様です。キャンプ場の宿泊単価は他業態に比べて低いため、利用者数は貸別荘・ペンションと同様でも消費額は貸別荘・ペンションよりも少なくなっています。

貸別荘やペンションは、コロナ禍が明けて好調に推移していることがわかります。動向としてはホテルに最も近く、消費額に関してはコロナ禍前のピークであった2018年に近づく勢いです。利用者数の増加に比べると消費額の増加の方が著しいことから、コロナ禍前後で宿泊費への消費金額があがっていることが予想されます。

民泊の動向として、他業態と比較すると小さい市場規模に感じますが、民泊は営業日数の制限(年間180日まで)があることを考えると仕方ない部分もあるかなと言えます。また、他業態では観光需要の高まるレジャーシーズンにはグラフが大きく突出しているのに比べ、民泊に関してはその繁閑の差が緩やかに見えます。実際には民泊でも季節の繫閑はあるのですが、レジャーシーズンだからといって需要が爆発的に伸びることがないというのが民泊の特徴と言えます。

2023年の年間宿泊消費額の総額は、ペンション・民宿・貸別荘で約1094億円、民泊で約260億円でした。

国土交通省の発表している住宅宿泊事業法の届出状況によると、2023年11月時点の民泊届出件数は約21,500件です。単純に消費額をこの届出件数で割ると、1棟当たりの年間平均売り上げは120万円程度になります。

民泊業界は市場規模が大きくない!それでも…

以上、民泊や貸別荘の市場規模を見てきました。

ホテルや旅館に比べると圧倒的に市場規模が小さいと感じてしまいますが、近年は物価高騰や円安の影響からホテルや旅館の宿泊代金が上がってきており、利用客が民泊や貸別荘等の一棟貸しへと流れる動きもあるようです。

実際、「宿泊」という目的の達成においてはホテルや旅館の利用客の中にも、民泊や貸別荘の潜在的な市場が存在していると言えます。一棟貸しというと「大人数だと割安」で集客する方法がメジャーですが、「快適な宿泊」「少人数でも安心して泊まれる」といったホテルや旅館にも通ずる基本的な魅力をプッシュすることで、新たな顧客層の取り込みをしていける可能性があるでしょう。

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