中小企業新事業進出補助金の概要!民泊や貸別荘など宿泊業でも使える?

2025年4月22日、第1回中小企業新事業促進補助金の公募要領が発表となりました。

事業再構築補助金の後継となる補助金として数か月前より公表が待たれていました。補助金額が高額な一方、申請にかかる要件や採択後の手続きが複雑で難易度が高いといわれていた事業再構築補助金でしたが、今回の中小企業新事業進出促進補助金はどのような内容になっているのでしょうか。

本ページでは、中小企業新事業進出促進補助金(以下本補助金と記載)の概要や、民泊や貸別荘といった宿泊事業は対象となりうるのかを説明していきたいと思います。

参考:中小企業新事業進出補助金公式HP

中小企業新事業進出促進補助金の対象

本補助金ですが、中小企業の新市場・高付加価値事業への進出を後押しし、企業規模の拡大や生産性向上を通じて賃上げにつなげていくことを目的としています。

したがって、従業員の賃上げを図ることが最終的な目標です。よって、申請にあたってはこの目的を実現できる事業計画を策定する必要があります。

本補助金の対象は以下となります。

①中小企業者…資本金又は常勤従業員数が下表の数字以下となる会社又は個人であること。

中小企業新事業進出補助金公募要領(第1回)より

②「中小企業者等」に含まれる「中小企業者」以外の法人…企業組合や一般社団法人などです

③特定事業者の一部…生活衛生同業組合、酒造組合などです

④対象リース会社…機械装置などにリースを利用する場合、一定条件のもとリース会社との共同申請が可能となります

個人事業主でも申請できる?

上記の中小企業者等であれば補助対象となり得ますが、本補助金においては補助対象事業者が明確に定められており、例えば応募申請時点で従業員数が0名の事業者や、新規設立・創業後1年に満たない事業者は対象外とされています。

一般的に個人事業主は使用者となり従業員の数には含まれないため、従業員のいない個人事業主は対象とはなりません。また、最低でも1期分の決算書の提出が必要なため、創業1年以内の事業者も申請ができません。

要件

まず前提として、本補助金の申請には、「次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号)」に基づく一般事業主行動計画の策定・公表が必要になります。公表を行っていない場合はこちらの手続きもあらかじめ進めていかなければなりません。(要件⑤ワークライフバランス要件を参照)

参考:一般事業主行動計画の策定・届出等について/厚生労働省

本補助金の要件は6つあります。

要件においてたびたび登場する「補助事業終了」は補助金の対象となる事業が開始できる状態になったタイミングを指します。例えば貸別荘事業を始める場合であれば、リフォーム工事や家具の設置などが終わり、許認可もおりて予約を受け付けることができる状態になった時点と考えられます。

①新事業進出要件

本補助金の公式HPにて公開されている「新事業進出指針」に示す「新事業進出」の定義に該当する事業であることが必要です。

下記3つをすべて満たした事業計画でなければなりません。

製品等の新規性要件
市場の新規性要件
新事業売上高要件

詳細は公募要領や上記新事業進出指針へ記載されていますので割愛しますが、1つ押さえておきたいのは、ここでの「新規性」とは、補助事業に取り組む中小企業者等にとっての新規性であるという点です。決して日本初や世界初といった世の中におけるイノベーション的なものが要求されているわけではありません。

②付加価値額要件

補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、付加価値額(又は従業員一人当たり付加価値額)の年平均成長率が4.0%以上増加する見込みの事業計画を策定する必要があります。

付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費

③賃上げ要件

補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、一定水準以上の賃上げを行うことが必要です。

都道府県等によっても変わってきますが、おおよそ毎年3.0%~4.0%程度ずつ給与をあげていくことが求められます。

④事業場内最賃水準要件

補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、毎年、事業所内最低賃金(本補助事業を実施する事業所内で最も低い賃金)が補助事業実施場所都道府県における地域別最低賃金より30円以上高い水準であることが必要です。

要件の達成状況の確認のため、事業化状況報告時に、賃金台帳等の提出を求められます。

⑤ワークライフバランス要件

「次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号)」第12条に規定する一般事業主行動計画の策定・公表を行うことが必要です。

応募申請時までに、次世代法に基づき一般事業主行動計画を策定し、仕事と家庭の両立の取組を支援する情報サイト「両立支援のひろば」に策定した一般事業主行動計画を公表する必要があります。

⑥金融機関要件

金融機関等から資金提供を受けて補助事業を実施する場合は、資金提供元の金融機関等による事業計画の確認を受ける必要があります。

この際、確認を受けた証明として「金融機関による確認書」の提出が求められます。そのためあらかじめ金融機関とも調整が必要になる点を認識しておきましょう。

なお、金融機関等からの資金提供を受けずに自己資金のみで補助事業を実施する場合は提出は不要です。

補助対象金額

補助金額は以下の通りとなります。

従業員数補助金額
20人以下750万円~2,500万円(3,000万円)
21人~50人750万円~4,000万円(5,000万円)
51人~100人750万円~5,500万円(7,000万円)
101人以上750万円~7,000万円(9,000万円)
賃上げ特例の適用による補助上限額の引上げを受ける事業者の場合、( )内の補助上限額を適用

補助率は【1/2】です。

補助率…対象となる経費のうち実際に支給される金額を算出する歩率。例えば対象経費となる機械装置を2,000万円購入したら、実際に補助金として受け取れるのは2,000万円ではなく1/2をかけた1,000万円になります(1,000万円は自己資金)。

補助対象経費の概要

本補助金の対象となる経費は以下になります。細かい条件があるので、必ず公募要領を読み通しましょう。

なお、当然のことですが本補助金で申請する事業計画で使用・必要なものに限ります。

機械装置・システム構築費・機械装置、工具・器具の購入、製作、借用に要する経費
・機械装置、工具・器具の購入、製作、借用に要する経費
建物費・建物の建設・改修に要する経費
・建物の撤去に要する経費
・建物に付随する構築物の建設に要する経費
運搬費運搬料、宅配・郵送料等に要する経費
技術導入費補助事業遂行のために必要な知的財産権等の導入に要する経費
知的財産権等関連経費特許権等の知的財産権等の取得に要する弁理士の手続代行費用や
外国特許出願のための翻訳料など知的財産権等取得に関連する経費
外注費検査・加工や設計等の一部を外注(請負、委託等)する場合の経費
専門家経費必要な専門家に支払われる経費
クラウドサービス利用費クラウドサービスの利用に関する経費
広告宣伝・販売促進費広告(パンフレット、動画、写真等)の作成及び媒体掲載、
補助事業のPR 等に係るウェブサイトの構築、展示会出展、
ブランディング・プロモーションに係る経費

上記に含まれるようなものであっても、補助対象とならない経費は公募要領に明記されているので、目を通しておきましょう。代表的なのは不動産の購入や賃料など・自動車等車両・他の目的でも使える備品類(パソコン・家具家電など)です。

また、価格の妥当性の確認のため、建物費などは相見積もりが必要になるほか、契約(発注)先1件
あたりの見積額の合計が50万円(税抜き)以上になる場合も、3者以上の同一条件による見積もりを取得することが必要とされています。

スケジュール

第1回中小企業新事業進出補助金のスケジュールは、以下の通りとなっています。

〇申請受付:令和7年6月頃~
〇応募締切:令和7年7月10日(木)18:00
〇採択発表:令和7年10月頃(予定)

採択を受けた後に実際に補助金の対象経費として申請するのに必要な資料を集めて交付申請を行い、交付決定後に事業を実施していく流れとなります。

申請→(口頭審査)→採択発表→
→交付申請→事業の実施→
→実績報告→交付額の確定検査→補助金の支払

なお、審査においては口頭審査が行われる可能性があります。どのような事業者に対して口頭審査が行われるかは公表されておらず、一定の審査基準を満たした事業者の中から必要に応じて、とされています。口頭審査の対象となっても大丈夫なよう、念入りに事業計画を立てましょう。

また、補助金の支払いはすべて事業の実施が完了した後になります。つまり後払いなので、立て替えが必要な点も注意が必要です。

交付決定日より前に補助事業に係る製品の購入や役務の提供に係る契約(発注)等した経費は、補助対象になりませんので注意しましょう。例えば貸別荘事業でリフォーム工事費を対象経費としている場合、発注できるのは交付決定後となります。

申請に必要な書類

申請に必要なのは以下の書類です。

① 決算書(直近2年間の貸借対照表、損益計算書(特定非営利活動法人は活動計算書)、製造原価
報告書、販売管理費明細、個別注記表)

② 従業員数を示す書類(労働基準法に基づく労働者名簿の写し)

③ 収益事業を行っていることを説明する書類

④ 固定資産台帳

⑤ 賃上げ計画の表明書

⑥ 金融機関による確認書(金融機関等から資金提供を受けて補助事業を実施する場合のみ)

民泊や貸別荘など宿泊業でも使えるか?

きちんと要件を満たした事業計画であれば、民泊や貸別荘など宿泊事業でも中小企業新事業進出補助金の対象になり得るでしょう。建物の建設・改修といった費用を対象経費にしていくことが考えられます。

本補助金で最も大事なのは「新事業進出の要件」を満たせるかどうかです。自社にとって宿泊事業が新規性を有しており、既存のターゲット市場以外へ進出していけるのか、また、現在の売上高に対して新規の宿泊事業が一定の割合を占めるほどの成長見込みがあるのか、といった点を検討していくとよいと思います。

最後に、本補助金の事務局から注意事項としても呼びかけられている通り、事業計画の作成は必ず申請者自身で作成しましょう。採択されたのちの事業計画の実行や賃上げなどの目標を達成していくにあたっては当然困難も伴いますから、申請者が責任をもって取り組む必要があるのです。

検討やブラッシュアップのために外部支援者等の助言を受けることは差し支えないとされていますが、作成自体を申請者以外が行うことは認められず、発覚した場合は不採択・採択取消・交付決定取消となります。こういったペナルティを受けないために、というのは言うまでもありませんが、自社を適切に成長させていくためにも、申請者自身が主体となり責任を持って補助金申請を進めることが大切です。

※申請の検討に当たっては必ず中小企業新事業進出補助金事務局が公表している公募要領ほか各種資料を読みこみ、不明点は担当窓口へお問い合わせください。

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