
本記事では、民泊でお酒を扱う際に必ず知っておくべき「酒税法」と「食品衛生法」のポイントを解説します。
民泊(住宅宿泊事業や簡易宿所)を運営する際、お酒の提供はゲストの満足度を高める魅力的な「おもてなし」の一つです。しかし、日本には酒税法という非常に厳格な法律があり、一歩間違えると「無免許での酒類販売」として、重い罰則の対象となるリスクがあります。
「民泊のゲストに、地域の地酒をプレゼントしたい」 「ウェルカムドリンクとしてビールを無料で振る舞うのは問題ない?」 「お部屋の冷蔵庫に有料のミニバーを設置したいけれど、何か許可は必要?」とお考えの方も多いと思います。そんな悩みを解消していきましょう。
「販売」か「提供」か?

民泊でお酒を扱う際、まず判断しなければならないのが、その行為が「酒類の販売(小売)」に該当するのか、それとも「飲食店としての提供(飲用)」に該当するのかという点です。いずれを選択するのかによって、必要な許認可が異なるためです。
酒類販売業免許(酒税法)が必要なケース
お酒を「未開封のまま」「持ち帰り可能な状態で」対価を得て渡す場合は、酒類販売業免許が必要です。
- 有料で缶ビールや小瓶のワインを売る
- フロント横の売店で、お土産用の地酒を売る
- 宿泊料金とは別に「お酒代」として料金を徴収する
飲食店営業許可(食品衛生法)が必要なケース
お酒を「その場で飲むために」「グラスに注いだり、栓を抜いたりして」提供する場合は、原則として飲食店営業許可が必要になります。
- 施設内のダイニングやラウンジでお酒を出す
- 食事と一緒にアルコールを提供する
- カクテルなど、お酒を混ぜて提供する
民泊(住宅宿泊事業法)の届出や旅館業の許可だけでは、お酒を「販売」したり「調理・提供」したりすることはできません。別途、税務署(酒税法)や保健所(食品衛生法)のハードルをクリアする必要があります。
知らないと怖い無料提供の落とし穴
事業者様の中には「無料で配る分には免許はいらないだろう」とお考えの方もいらっしゃると思いますが、ここには大きな法的リスクが潜んでいます。
「実質的な販売」とみなされるリスク
たとえお酒自体が無料であっても、「宿泊代金の中にお酒の代金が含まれている」とみなされる場合、それは「販売」として解釈される可能性が高いです。
例えば、以下のケースは注意が必要です。
- 「お酒飲み放題プラン」として、通常の宿泊費より高い料金設定にしている。
- お酒を飲む人と飲まない人で、宿泊料金に差をつけている。
これらは実質的な有償譲渡(販売)と判断され、酒類販売業免許がない場合は酒税法違反に問われる可能性があります。
「ウェルカムドリンク」としての提供
一方で、宿泊代金とは全く無関係に、純粋な好意として少量の既製品(缶ビール1本など)を渡す程度であれば、直ちに免許が必要とされるケースは少ないです。
しかし、その境界線は非常に曖昧であり、自治体や税務署によって判断が分かれることもありますので、どのような形態で提供するのか計画を事前に確認しておくことが必要です。
客室内の「ミニバー」や「自販機」は設置できる?

本格的なホテルと同じように、客室内の冷蔵庫にお酒を用意したいというニーズは高いです。これについては、以下のルールが適用されます。
客室内ミニバーの特例
宿泊施設の「客室内」で、宿泊客に対してお酒を販売する場合、一定の条件下で酒類販売業免許の対象外となります。 ただし、これはあくまで「宿泊客のみ」を対象とし、「客室内で消費される」ことが前提です。
自動販売機の設置
ロビーなどの共有スペースにお酒の自動販売機を設置する場合、その場所が「宿泊客以外も出入りできる場所」であれば、原則として一般酒類小売業免許が必要になります。また、未成年者飲酒防止のための年齢確認機能(識別装置)の搭載など、設備面での厳しい基準も課されます。
まとめ:安心してお酒を提供するために
民泊でのお酒の提供は、法解釈が非常に複雑で、「酒税法」「食品衛生法」「旅館業法(または住宅宿泊事業法)」の3つの法律が絡み合っています。

法的な不安を解消することは、ゲストへの最高のホスピタリティへの第一歩です。まずは一度、民泊と許認可の専門家である当事務所へご相談ください。

