民泊を開業・運営するうえで、多くのオーナーが力を入れる集客活動。Airbnbや楽天STAYへの掲載文、写真の選び方、キャンペーンの打ち出し方など、日々の運営のなかでさまざまな「表示」を行っているはずです。しかし、こうした広告・宣伝活動はすべて景品表示法(景表法)の規制対象になります。
「少し大げさに書いた程度」「競合に合わせてお得感を演出しただけ」——そう思っていても、景品表示法に違反すれば行政指導・措置命令・課徴金といった厳しいペナルティが科される可能性があります。個人オーナーも例外ではありません。この記事では、民泊オーナーが必ず知っておくべき景品表示法の基本と、実際の広告表示で注意すべきポイントをわかりやすく解説します。
景品表示法とは何か?

景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)は、消費者が適正な商品・サービスを選択できる環境を守るために1962年に制定された法律で、現在は消費者庁が所管しています。
この法律が規制する対象は大きく2つに分かれます。ひとつは不当表示の禁止、もうひとつは不当景品類の規制です。
不当表示とは、商品やサービスの内容・価格などについて、実際よりも優良・有利に見せかける表示のことです。民泊の文脈でいえば、物件の広さや設備、立地、価格に関する誇張や虚偽の表現がこれにあたります。一方、不当景品類の規制とは、過大なプレゼントやキャンペーン特典を提供することで消費者の合理的な判断を歪める行為を禁じるものです。民泊での宿泊特典やポイント還元キャンペーンなども対象になります。
「大企業が対象の話で、個人の民泊には関係ない」と思われるかもしれませんが、景品表示法は事業規模を問わず、事業として行うすべての取引に適用されます。民泊新法(住宅宿泊事業法)に基づいて届出をして運営している個人オーナーであっても、例外ではありません。
民泊に関係する「不当表示」の3類型

景品表示法が禁止する不当表示には、主に3つの類型があります。それぞれが民泊の広告にどのように関わるかを理解しておくことが重要です。
優良誤認表示——品質・内容の誇張
商品やサービスの品質・規格・内容について、実際よりも著しく優良であると示す表示を「優良誤認表示」といいます。民泊でよくあるのは、築年数や設備に関する誇張表現です。たとえば、築30年の物件を「リノベーション済みの新築同等」と表記したり、Wi-Fiが不安定なのに「高速Wi-Fi完備」とうたったり、実際には使えないアメニティが掲載写真に写り込んでいたりするケースがこれにあたります。
また、アクセスに関する表示も注意が必要です。最寄り駅まで実際には徒歩15分かかるにもかかわらず「駅近!徒歩5分」と記載したり、観光地まで「すぐ」と書きながら実際には公共交通機関を使って30分以上かかる場合なども、優良誤認表示として問題になりえます。
「著しく優良」かどうかの判断基準は「消費者の選択に影響を与えるかどうか」であり、思っている以上に広く解釈されます。「これくらいなら許容範囲だろう」という感覚は、法的な基準とずれている可能性があることを念頭に置いておきましょう。
有利誤認表示——価格・条件の誇張
価格や取引条件について、実際よりも著しく有利であると消費者に誤認させる表示が「有利誤認表示」です。価格に関する不正表示はとくに厳しく見られる傾向があります。
典型的な例として挙げられるのが、通常価格を実際より高く設定した上で「50%OFF!」と表示する二重価格表示です。元の価格に正当な根拠がない場合、これは有利誤認表示にあたります。また、清掃費・サービス料・宿泊税といった諸費用を表示せず宿泊費のみを強調したり、「今だけ特別価格」と称しながら実際にはほぼ常時その価格で提供していたりするケースも問題です。さらに、比較対象が存在しない「他社比30%安」といった根拠のない比較表示も有利誤認表示にあたる可能性があります。
Airbnbなどのプラットフォームでは、検索結果に表示される価格と実際の予約完了時の総額が異なるケースがあります。これは消費者の不満につながるだけでなく、景品表示法上の問題にもなりえます。料金体系が複雑な場合ほど、表示の正確さには細心の注意が必要です。
おとり広告——存在しない・取得できない物件の掲載
消費者庁が個別に指定した不当表示のひとつに「おとり広告」があります。実際には宿泊できない、または取引する意思のない物件を掲載して問い合わせや予約を集める行為がこれにあたります。すでに予約済みにもかかわらず掲載を続けたり、魅力的な写真で集客しながら実際とは異なる物件に誘導したりするケースがその例です。
プラットフォーム上では管理の手間から掲載情報の更新が遅れることもありますが、意図の有無にかかわらず問題となる場合があるため、情報の鮮度を保つことが重要です。
民泊広告で特に注意したい5つのポイント

① 写真は「現状を正確に反映」しているか
民泊の集客において、写真は最も重要な要素のひとつです。魅力的な写真を掲載することは集客上も効果的ですが、実際の物件と大きく異なる加工・演出をした写真の使用は景品表示法違反につながります。
問題になりやすいのは、広角レンズを多用して部屋を実際より著しく広く見せるケース、撮影時のみ配置した家具や備品が実際には提供されない場合、景色の写真が実際の眺望と異なる(別の階や別の部屋から撮影した)場合などです。また、リノベーション前の写真を更新せずに使い続けることで実態より良く見せるケース(逆に劣化した状態のまま古い写真を使うケースも誤認を招きます)も注意が必要です。
プロのカメラマンに撮影を依頼する際も、「魅力的に見せること」と「実態と大きく異なること」は別物だという認識をカメラマンと共有しておくことが大切です。消費者が写真を見て抱いた期待と実際の宿泊体験が大きくかけ離れれば、低評価レビューにも直結します。これは景品表示法上の問題であるだけでなく、運営の継続性という観点からもリスクです。
② 立地・アクセスの表示は根拠をもって正確に
「駅近」「観光地まで徒歩圏内」といったアクセスに関する表示は、宿泊先選びに大きく影響する情報です。不動産広告の分野では道路距離80mを徒歩1分として計算するルールが公正競争規約で定められていますが、民泊広告においても同様の基準を参考にすることが無難です。実際の所要時間よりも短く表示している場合、消費者が宿泊先に到着したときに「思ったより遠かった」という失望を生むことになります。
「〇〇まですぐ」「便利な立地」といった曖昧な表現も、実際の利便性と大きく乖離している場合は優良誤認表示として問題になりえます。アクセスに関しては、地図サービスの実測データを根拠に、正確な所要時間を記載することをおすすめします。
③ 価格表示は総額で、条件は明確に
2022年の景品表示法改正により、消費者が実際に支払う総額を明瞭に表示する義務がより強く求められるようになっています。民泊では、宿泊費に加えて清掃料・サービス料・宿泊税などが別途かかるケースが多いため、それらを含めた総額を分かりやすく示すことが必要です。
「1名あたり〇〇円〜」「週末限定価格」といった表示をする際は、前提となる条件(人数・泊数・曜日など)を明確にすることが求められます。割引やクーポンを訴求する際も、元の価格・割引の条件・適用期間を明示することが重要です。消費者が予約手続きを進める中で「思ったより高かった」と感じる体験は、直接的な不満やキャンセルにつながるだけでなく、景品表示法上のリスクも伴います。
④ 口コミ・レビューの取り扱いに注意——ステルスマーケティング規制

2023年10月、消費者庁はいわゆる「ステルスマーケティング(ステマ)」を景品表示法上の不当表示として正式に指定しました。これにより、広告であることを隠した口コミ投稿の依頼や、自作自演のレビューが明確に違法となっています。
民泊オーナーが注意すべき具体的なケースとしては、知人や家族に依頼して宿泊者を装ったレビューを投稿させること、「高評価をくれたら次回割引」などの条件を提示してレビューを誘導すること、SNSで紹介してもらう代わりに宿泊費を無料・割引にする際に「広告」や「PR」の明記を求めないことなどが挙げられます。
インフルエンサーや旅行ブロガーとのコラボレーションを検討する場合も、対価を提供する以上は広告であることを明示してもらう必要があります。ステマ規制は事業者側の責任を問うものであり、投稿者任せにしておくことはリスクになります。
⑤ キャンペーン・特典は景品規制の上限に注意
早期予約特典やリピーター向けのサービス、紹介キャンペーンなどを企画する際は、景品表示法が定める景品類の上限額に注意が必要です。抽選などを伴う一般懸賞では、取引価格の20倍または10万円のいずれか低い額が上限となります。もれなくもらえる総付景品(例:全員にプレゼント)の場合は、取引価格の10分の1または200円のいずれか高い額が上限です。一方、購入を条件としないオープン懸賞については上限の定めがありません。
「特典が豪華なほど集客できる」という発想は理解できますが、規制の上限を超えた景品提供は違反となります。キャンペーンを企画する際は、取引価格との関係で上限額を事前に確認しておくことが重要です。
違反した場合のペナルティ
景品表示法に違反した場合、消費者庁または都道府県から行政上の措置が取られます。最も一般的なのが措置命令です。これは違反行為の停止と再発防止を命じる処分であり、命令に従わない場合は2年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑事罰の対象にもなります。
また、優良誤認・有利誤認表示によって売上が生じていた場合には、課徴金納付命令が下されることがあります。その金額は対象期間(最長3年)の売上の3%相当であり、長期にわたる違反であれば相当額になる可能性があります。さらに、措置命令や課徴金納付命令が下された場合は、消費者庁のウェブサイトで事業者名と違反内容が公表されます。これによるレピュテーションへのダメージは、直接的な金銭的ペナルティ以上に運営への打撃となりうるでしょう。
加えて、AirbnbやBooking.comといったプラットフォームも独自の利用規約を持っており、規約違反と判断された場合は掲載停止・アカウント停止という措置が取られることがあります。行政罰と民間プラットフォームによる制裁が重なれば、事業継続自体が困難になるリスクもあります。
まとめ:正直な情報発信こそが持続可能な運営の基盤
景品表示法は消費者を守るための法律ですが、見方を変えれば、正直に情報を伝えている民泊オーナーが不公正な競合から守られるための法律でもあります。誇張した広告で一時的に予約を集めても、実際の宿泊体験が期待を下回れば低評価レビューに直結し、長期的には集客力を大きく損ないます。
物件の魅力を正確に、かつ魅力的に伝えること——これは景品表示法を遵守するための最低ラインであると同時に、持続可能な民泊運営を続けるための基本姿勢でもあります。広告表示についての迷いや不安がある場合は、消費者庁が公開している景品表示法ガイドラインを参照するか、行政書士・弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
※本記事は情報提供を目的としており、法的アドバイスを提供するものではありません。個別のケースについては専門家にご相談ください。法令の内容は変更される場合がありますので、最新情報は消費者庁の公式サイトでご確認ください。
